近未来予想ドラマ 第二部「アイドルはまえだ!」

「うわぁー雲ひとつない朝。青空きれい!」

2019年3月29日。 赤坂にあるTBSテレビの近くのホテルで二日目の朝を迎えた前田愛実はカーテンの間からもれる朝日のまぶしさで目が覚めた。

「こんな青空なんて見たことない。気持ちいい一日になりそう」

まばゆい朝の光が部屋にただよう中で彼女はふと、昨日の一日を思い出した。

「昨日のミスオブミス。準グランプリの前田千恵ちゃん、グランプリの高内裕未さん。すごかったなぁ。本当に。二人とも全身からオーラが出ていた」

住んでいる徳島を離れ東京での二日目。雲ひとつない青空を見る前田愛実。雲ひとつない青空で彼女の今日一日のスケジュールに期待感を膨らましていた。

ニート君とホテルのロビーで朝9時に待ち合わせだったよね。急いで朝食会場にいこうっと」

着替えた彼女はエレベーターで1階に向かった。 今の彼女は何一つやってもうれしくてしょうがない。

朝食会場は1Fの珈琲店で営業時間は07:00〜10:00。 メニューはモーニングセットメニューで数種類から選択。 料金1,500円。 いつでもチェックアウトできるように準備を整え、彼女は朝食をとっていた。

朝8時半。 ホテルのレセプションデスクのある1階に彼女は来たところ、入口から童顔の青年が待っていた。

「おはようございます」

「おはようございます!鳴門教育大学、学校教育学部英語科1年、前田愛実です!今日はよろしくお願いします!」 彼女は彼の顔を見て急に緊張した。

「なあに愛実さん、昨日会ったばかりじゃないか。いつも通りニート君でいいよ、と言いたいところだけど、今日から正式に芸能事務所が創立になったからニート君の名前は昨日で終わり。 僕の名前は湯浅功って言うけど呼ぶときはコーでいいよ。今日から僕は君のマネージャーです。まなみんよろしくね」

話で聞いていた芸能界が今現実になる新鮮さを受けた彼女だが、何よりも今日から始まる所属芸能事務所の創立式典出席を思い、緊張感が更に膨らんだ。

「ありがとうございますよろしくお願いします」 前田愛実は大きな瞳を輝かせ、コーに一礼した。 「それじゃあ、行きましょうか」

 

これより30分前のこと。

マクドナルドの前で人を待つ一人の女がいた。

「なんで桜美林大学のとなりのマクドナルドの入口が待ち合わせ場所なのよ。ここ結構混むのに……あ、ニート大王さん!」

「…おはようございます。前田千恵さん」 二人は笑顔で落ち合った。

ニート大王さんもずいぶんへんぴなところを待ちあわせ場所に選んだのですね。これならまだ小田急線の向ヶ丘遊園駅待ち合わせの方がゆみちゃんの大学のそばでわかりやすいのに、ハハハ」と前田千恵は不思議そうな顔をして笑った。

「ハハ……いいんだ。全てはここで起こった。そしてここから始まる」

ニート大王は笑いながら言葉をかみしめるように言った。

彼の顔つきを見た前田千恵は気がついたように、 「!…ごめんなさい。ここはニート大王さんが高内裕未ちゃんのスカウトをやめてその権利を吉祥寺テラスさんに譲ると約束した場所ですよね」

「そうだよ」

「だからここが待ち合わせ場所ですか…」ニート大王は軽くうなずいた。

「その後、高内裕未ちゃんはミスオブミスグランプリになった…プロダクションスカウトの立場ならその悔しさわかります」

「…ここから始めようと思ってね。変なところを待ち合わせにしてごめんな」

前田千恵は首を横に振った。 「いいんですよ。お気持ちわかります。でもそのおかげで濱野吹雪ちゃんと前田愛実ちゃんていうあんなにかわいい子がうちにくるんですよ。そう考えましょう」

「そうだな…千恵ちゃんの言うとおりだ。さあ行こうか。車は駐車場のあそこに置いてある」

「はい、わかりました」 彼女は笑顔で頷いた。

その艶な仕草を見てニート大王は大事なことを思い出したかのように言った。

「千恵ちゃん。今まで長い間色々やってくれてありがとう。今日から会社創立で私のニート大王という名前も昨日まで。 私の本名は名倉勇紀。今日から君のマネージャーだ。よろしく」

「え?」っと彼女は驚いた顔を覗かせた。

二人の乗った車はマクドナルドを出て国道16号を南に走り、横浜町田インターから東名高速に入り渋谷に向かう。 ふたりの「前田」は今、同じ場所に向かい同じことを思っていた。 「高内裕未ちゃん、たいへんなライバルになる……」